発明は発明者のものか、会社のものか?

職務発明・補償金額の調査結果(平成9年実施) 現在は実施しておりません

最近、青色発光ダイオードの発明について、「発明は発明者のものか、会社のものか?」、「会社が譲り受けた場合に、適正な対価とは?」の判断を求める訴訟が起こされ注目を集めています。裁判の審理が進むにつれ、各企業の関心はますます高まるものと考えられます。今後、紛争を未然に防ぐためにも、特許権の帰属や対価の額を定めた職務発明規程を整備する必要があるといえます。

当協会では、この職務発明制度に関する調査研究を昭和54年より継続して実施しております。平成9年1月8日から同年1月31日に行った調査は、平成7年度の特許出願公開上位800社の企業からランダム抽出した300社を対象に、アンケート票による質問形式で行い、173社(回収率57.7%)から回答を得ました。

以下に調査結果の一部を抜粋し、企業における職務発明規程の制定状況を紹介いたします。

(出典:発明協会研究所編「職務発明ハンドブック」)

1. 職務発明規程の有無

図1 職務発明規程の有無
図1 職務発明規程の有無

図1に示すように、職務発明について明文化した規程を持っている企業の割合は、回答数173社中171社(98.8%)となっており、ほとんどの企業で制定されていることがわかります。

日本特許協会(現在の日本知的財産協会)が会員企業を対象に昭和35年に行った調査では69%、同昭和48年に行った調査では83%(準備中を含めると 91%)であり、当協会が全産業分野の優良企業を対象に昭和54年に行った調査では73%、同昭和61年に行った調査では96.4%でした。

2. 補償時点

どれくらいの企業が、発明者に補償を行う規定を設けているかを各補償時点別にみてみます。

発明・考案・意匠の補償時点には、主として、

  • (ア)発明・考案・創作時
  • (イ)出願時
  • (ウ)審査請求時
  • (エ)登録時
  • (オ)実施許諾時
  • (カ)譲渡時
  • (キ)実績補償(自社実施)時
  • (ク)外国出願時

などを挙げることができます。その他、公開時、権利の存続時、外国出願登録時、発明表彰時などもあり、それぞれ、種々の目的で行われています。

どの時点で補償を行うかについては、各企業の特許戦略との関係があり、一概にはいえませんが、出願時、登録時、実績補償(自社実施)時での補償が多くなっています。図2と表1に示すように、昭和61年に行った前回の調査結果と今回の調査結果とを比較してみると、今回の調査では全体的に増加していますが、特に実績補償(自社実施)時では、前回の60.1%から74.3%へと大幅に増えています。実施許諾時、譲渡時では前回の約2倍の増加となっており、前回と比べると補償の割合がかなり改善されていることが分かります。

図2 補償時点別補償規定制定率
図2 補償時点別補償規定制定率
表1 補償時点別補償規定制定率
  前回
(昭和61年)
今回
(平成9年)
1.発明時 4.80% 7.60%
2.出願時 93.30% 97.70%
3.登録時 86.10% 87.10%
4.実施許諾時 12.50% 25.70%
5.譲渡時 9.10% 18.10%
6.実績補償時
(自社実施時)
60.10% 74.30%
7.外国出願時 9.10% 16.40%

3. 支払決定方法

図3 一律定額 対 評価に基づいて決定(特許)
図3 一律定額 対 評価に基づいて決定(特許)

補償金について、どのような支払方法で行う規定を設けているかをみてみます。出願時、登録時、実績補償(自社実施)時における「一律定額補償」と「評価に基づいて決定する補償」との比率を図3に示しました。

出願時、登録時では一律定額と回答した企業の割合が、評価に基づいて決定と回答した企業の割合より高くなっています。他方、実績補償(自社実施)時では評価に基づいて決定と回答した企業が一律定額と回答した企業より多くなっていることがわかります。

4. 規定上の補償金額

各補償時点における規定上の補償金額について、最大額、最小額、平均額を今回の調査と昭和61年の前回とを比較して表2と表3に示しました。

(a)一律定額の場合

出願時では、平均額は前回の4,514円に比べて約1.6倍の7,388円と増えており、最大額が前回の15,000円から150,000円と、10倍になっています。

登録時では、平均額は15,908円となっており、前回の12,220円に比較して約1.3倍となっています。最大額は前回の50,000円、今回の 70,000円であり、最小額は前回と変わらず3,000円ですから、前回に比べてそれほど変化はありません。

実績補償(自社実施)時では、平均額は前回の46,800円に比べて約2倍の97,000円とかなり増えており、最大額は前回の100,000円から 300,000円、最小額は前回の5,000円から18,000円と、それぞれかなり増加しています。

表2 規定上の補償時点別補償金額(特許)/(一律定額の場合)
  回答数 最大 平均 最小
1.発明時 今回(平成9年) 5 12,000 3,300 500
前回(昭和61年) 7 10,000 4,428 1,000
2.出願時 今回(平成9年) 129 150,000 7,388 2,000
前回(昭和61年) 175 15,000 4,514 1,000
3.登録時 今回(平成9年) 120 70,000 15,908 3,000
前回(昭和61年) 159 50,000 12,220 3,000
4.実施許諾時 今回(平成9年) 0
前回(昭和61年) 0
5.譲渡時 今回(平成9年) 2 20,000 13,000 6,000
前回(昭和61年) 0
6.実績補償時
(自社実施時)
今回(平成9年) 4 300,000 97,000 18,000
前回(昭和61年) 5 100,000 46,800 5,000
7.外国出願時 今回(平成9年) 22 24,000 7,409 3,000
前回(昭和61年) 18 24,000 7,138 1,000
8.その他 今回(平成9年) 4 10,000 8,000 2,000
前回(昭和61年) 18 30,000 9,722 4,000

(b)評価に基づいて決定の場合

出願時では、上限額の平均額は22,122円と、前回の10,166円に比べて2倍以上となっていますが、下限額の平均額は4,975円と、前回の 3,842円から約1,100円増にとどまっています。上限額の最大額をみてみると、100,000円と、前回の30,000円に比べて3倍以上となっており、下限額の最大額でも、前回の6,000円から3倍以上増加して20,000円となっています。

登録時では、上限額の平均額は38,118円で前回の137,421円から大幅に減少しており、最大額も前回の1,000,000円から100,000 円に減少しています。下限額の平均額についても前回の11,200円から8,933円とやや減少しています。

実績補償(自社実施)時では、上限額の平均額は614,588円と、前回の524,118円に比べて1.2倍、最大額は前回と変わらず 5,000,000円と、前回に比べてそれほど変化がないようです。しかしながら、今回の調査結果には反映されていませんが、昨今では実績補償(自社実施)時の補償金額の上限をかなり高く設定する企業も増加しているようです。下限額では、平均額が前回15,878円の約2倍の34,357円、最大額が前回の100,000円の5倍の500,000円と、かなりの増加がみられます。

表3 規定上の補償時点別補償金額(特許)/(評価に基づいて決定の場合)
  上限額 下限額
回答数 最大 平均 最小 回答数 最大 平均 最小
1.発明時 今回※1 3 100,000 37,667 3,000 2 5,000 3,000 1,000
前回※2 3 500,000 170,666 2,000 2 10,000 7,500 5,000
2.出願時 今回 18 100,000 22.122 3,000 20 20,000 4,975 1,500
前回 18 30,000 10,166 3,000 19 6,000 3,842 1,000
3.登録時 今回 17 100,000 38,118 5,000 15 20,000 8,933 3,000
前回 19 1,000,000 137,421 7,000 20 30,000 11,200 5,000
4.実施許諾時 今回 26 5,000,000 1,041,538 3,000 15 100,000 28,000 2,000
前回 21 3,000,000 519,047 100,000 14 40,000 13,857 1,000
5.譲渡時 今回 14 5,000,000 1,203,786 3,000 10 100,000 27,300 3,000
前回 14 1,000,000 371,428 100,000 10 40,000 14,900 1,000
6.実績補償時
(自社実施時)
今回 85 5,000,000 614,588 20,000 77 500,000 34,357 1,000
前回 102 5,000,000 524,118 30,000 95 100,000 15,878 1,000
7.外国出願時 今回 3 80,000 32,667 6,000 3 9,000 5,333 3,000
前回 1 15,000 15,000 15,000 1 5,000 5,000 5,000
8.その他 今回 5 1,200,000 342,600 4,000 4 3,000 1,775 100
前回 4 1,500,000 540,250 11,000 3 20,000 15,333 6,000

※1:平成9年 ※2:昭和61年

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